CTC Research
CTC研究
CTC研究の背景
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体内に癌が発生すると、そこから血管内に侵入し全身を循環する癌細胞;CTC(Circulating Tumor Cell)が発生初期から認められます。しかしCTCは血中濃度が極めて低いため捕捉が難しく、がん医療での利用は2000 年頃に開発され米国食品医薬品局の承認を得たCellSearch®(医学のあゆみ(医歯薬出版) Vol.228 No.11 P1079)により、ようやく始まりました。
CellSearch® は大腸がん、前立腺がん、乳がんにおいて、主にCTC血中濃度を計測して予後を予測する範囲で医療承認を受けていますが、肺がんなど他のがんにおいても広く使用されました。その結果、CellSearch® は種々のがんで必ずしも感度良くCTCを検出できないことが分かり、さらに近年ではCTCを回収して遺伝子解析することが重要となってきました。このようにCTCをがん医療で利用するための技術は未だ十分ではないため、その開発は世界で継続されています。Cytona 設立者はCTCの重要性を早くから認識し、2009 年から捕捉デバイスの研究を開始して「ポリマーCTCチップ」を開発しました。
ポリマーCTCチップの基本性能評価
CTC捕捉デバイスの基本性能は、通常、次のように表される「捕捉率」で示されます。
捕捉率 :(デバイスに捕捉された癌細胞数)/(デバイスに流れ込んだ癌細胞数)× 100 %
ポリマーCTCチップの捕捉率は各地の研究機関との連携のもと、様々な臓器由来の癌細胞株について求められています。捕捉試験においては癌細胞の性質に合った捕捉ターゲットを選択し、それに対する抗体をチップ表面にコートしました。捕捉ターゲットは通常用いられるEpCAM のほか、EGFR、HER2、podoplanin 等も選択しています。また癌細胞によっては複数の捕捉ターゲットを用いるのが効果的な場合があり、その際はそれらに合った抗体を混合しチップにコートしています。
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チップに捕捉された癌細胞株
ポリマーCTCチップの癌細胞捕捉性能(捕捉媒体:PBS)
大腸がん細胞(HCT116)
捕捉率 91%
捕捉ターゲット: EpCAM
前立腺がん細胞(PC3)
捕捉率 95%
捕捉ターゲット: EpCAM
乳がん細胞 (SKBR3)
捕捉率 90%
捕捉ターゲット: HER2
悪性中皮腫細胞 (ACC-MESO-1)
捕捉率 100%
捕捉ターゲット: EGFR、podoplanin
肺がん細胞 (PC-9)
捕捉率 100%
捕捉ターゲット: EpCAM
食道がん細胞 (KYSE510)
捕捉率 95%
捕捉ターゲット: EpCAM
膵臓がん細胞 (MIA PaCa-2)
捕捉率 90%
捕捉ターゲット: EGFR
肺がん細胞 (A549)
捕捉率 88%
捕捉ターゲット: cell surface vimentin
ポリマーCTCチップ臨床研究
大学病院との共同研究のもと、様々ながん種で血液検体を用いたポリマーCTCチップの臨床研究を実施しています。研究テーマは次のとおり多岐にわたっており、CTCが癌細胞情報を得るためだけでなく、がん医療や研究に広く活用できることを示しました(括弧内は関連する発表論文)。
- CTC検出率・カウント(下記参照)
- CTCによる治療効果モニタリングと予後予測(Cancer Sci. 110, 726-733 (2019)、癌と化学療法、42 巻、1240 (2015) ほか)
- 腫瘍マーカーとCTCによる癌検出(Oncol Lett. 19, 2286-2294 (2020))
- CTCの治療ターゲットマーカーや幹細胞マーカーの解析(Oncol Lett. 18, 6397-6404 (2019) ほか)
- CTCの回収、遺伝子解析(Cancer Sci. 113, 1028-1037 (2022) ほか)
以下では研究結果の一部を示しますが、詳しい内容やここに掲載されていない研究については、発表論文をご覧いただくかお問い合わせください。
ポリマーCTCチップによる臨床研究を実施したがん種(研究機関)
- 肺がん (産業医科大学医学部、 京都大学薬学研究科)
- 乳がん (富山大学医学部)
- 悪性胸膜中皮腫 (産業医科大学医学部)
- 食道がん (富山大学医学部)
- 大腸がん (東京大学医学部、 順天堂大学医学部)
- 膵臓がん (京都大学医学部)
- 泌尿器がん (日本医科大学)
- 婦人科がん (順天堂大学医学部)
- 頭頸部がん (金沢大学医薬保健研究域)
- 悪性脳腫瘍 (新潟大学医学部)
- 骨軟部肉腫(富山大学工学部・医学部)
- 小児がん (群馬大学医学部)
CTC検出率
血液検体を使用し、様々ながんの患者さん集団においてCTCが検出される人数の割合(CTC検出率)を計測しました。また既存のCTC解析装置との性能比較として、唯一米国FDA承認を得ているCellSearch® に対しCTC検出率で評価しました。
ポリマーCTCチップはいずれの検討においてもCTC検出率に優れ、十分に臨床応用が可能であることが示されています。
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チップに捕捉されたCTC
大腸がん(順天堂大学 下部消化管外科)
CTC検出率 92.3%(12/13)
Oncol Lett. 19, 2286-2294 (2020)
大腸がん(東京大学 消化器内科)
CTC検出率 81.8%(9/11)
Oncol Lett. 18, 6397-6404 (2019)
前立腺がん(日本医科大学 泌尿器科)
CTC検出率 100%(14/14)
Prostate International 7, 131-138 (2019)
肺がん(産業医科大学 第2外科学)
CTC検出率 58.1%(18/31)
Cancer Sci. 113, 1028-1037 (2022)
悪性胸膜中皮腫(産業医科大学 第2外科学)
CTC検出率 73.7%(14/19)
Oncol Lett. 22, 522-530 (2021)
ポリマーCTCチップ vs. CellSearch(米国FDA承認機器)
ポリマーCTCチップ CellSearch 肺癌
検出率 58.1%(18/31)
検出率 25.8%(8/31)
悪性胸膜中⽪腫
検出率 68.8%(11/16)
検出率 6.3%(1/16)
Cancer Sci. 113, 1028-1037 (2022) / Cancer Sci. 110, 726-733 (2019)
チップからのCTC回収
チップに捕捉したCTCから詳細ながんの情報を得るには、それを回収することが必要となります。このような回収は、マイクロマニピュレーター、マイクロピペットによる従来法(下記参照)により可能であり、これまでの臨床研究で実施してきました。また様々なCTCの利用を考慮したうえで回収について検討し、既に大学との共同研究のもと次の方法を確立しています。
- Air foamを用い、チップ上のCTCを100%剥離し生きたままチップ外に流し出して回収する方法
- 再溶解可能なゲル材料を用い、チップ上の全細胞をゲルで包埋したのちに指定したCTCを確実に回収する方法
マイクロマニピュレーター、マイクロピペットによる細胞回収
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回収したCTCの遺伝子解析
臨床研究においてチップから回収したCTCの遺伝子解析を実施しており、これまでに次のような結果を得ています。
- 遺伝子変異からCTCの悪性を確認(CTCが癌細胞であることを立証)
- 肺がんにおける重要な遺伝子変異(EGFR 変異、 KRAS 変異)をCTCで解析し、組織検査と同じ変異が認められることを確認
- シングルセルCTCの次世代シーケンサー解析プロトコールを確立
ここでは患者さんのCTCを解析するのに先立ち、癌細胞株を用いてチップに捕捉、回収した癌細胞において、遺伝子解析テストを実施した例を示します。
回収細胞の遺伝子解析テスト
PC9(肺がん由来細胞株、EGFR exon19に欠失変異あり)をポリマーCTCチップに捕捉したのち、マイクロピペットで回収した細胞においてPCRによりその欠失変異を解析しました。その結果、回収細胞でバルクPC9細胞と同様な欠失変異を示すDNAが認められました。
PCRサンプル
- チップから回収した単一細胞①~④
- ポジティブコントロール:バルクのPC9細胞
- ネガティブコントロール:バルクのNCI-H441細胞(肺がん由来細胞株、EGFR exon19は野生型)および水
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